『猫ヶ原』とは?
『猫ヶ原』というのは講談社『少年マガジンエッジ』に2015年9月から連載されている武井宏之の新作です。
『猫ヶ原』というからには主人公は猫。そして現在登場しているキャラクターもほとんど猫です。猫が喋ったり商いをしたり夢のような世界です。
舞台は明確にはされていないものの、戦国時代の直後であろう荒れ果てた世界。戦国の世で勝った城主である人間によって土地は支配されていて、城主の飼い猫はどの猫よりも格上なのです。
しかし主人公の「ノラ千代」は飼い猫ではなく野良猫です。ですが過去に飼い猫だった経歴がある為、飼い猫の証である「鈴」を身につけています。詳しくはまだ判明されていませんが、このノラ千代の元飼い主も権力のあった人間のようです。
そしてその飼い主は争いのなかで死に、ノラ千代は野良の身となったのです。この『猫ヶ原』はそんなノラ千代が死に場所を求め旅をする物語なのです。猫の旅と言っても可愛らしいものではありません。
ノラ千代は悪い猫・嫌いな猫、見境なくバッサバッサと自慢の刀で斬っていきます。彼の歩いた跡には血の池が出来ると言っても過言ではありません。
彼の行いが全て正義というわけではありません。野良猫なので正義にも悪にも属さず、自分の思うように生きています。
なぜ猫なのか
なぜ猫がメインの作品を連載する事にしたのでしょうか。実はこれには深い理由があります。作者の武井宏之というのは今まで『シャーマンキング』『ユンボル』『仏ゾーン』など様々な漫画を連載してきました。
『シャーマンキング』では霊を題材に、『ユンボル』では工事を題材に、『仏ゾーン』では仏を題材にするなどオリジナリティ溢れるテーマの作品を制作する事に定評のある武井宏之。
主に少年漫画を描いている彼ですが、個性的な彼はもちろん毎回普通の少年漫画を描くわけがありません。友情・努力・勝利という王道の少年漫画ではなく、基本的には心の対話になります。
悪者として登場した敵キャラであろうと、本当は良い心の持ち主だから心の対話で問題を解決しようという意識が彼の漫画にはあるのです。
そしてその意識は作品が進むにつれて「何が正義で何が悪なのか」というものに変化していきます。
数々の連載作品を通して「正義と悪」について考えてきた武井宏之。そんな彼が今回描くのは正義でも悪でもない自由気ままなキャラクターです。自由気ままであるという事は批判される事ももちろんあります。
行き過ぎた表現をすれば批判を超えて炎上することもあるでしょう。そういったしがらみが面倒臭いからこその「猫」なのです。
人間の行き過ぎた表現であれば問題視されますが、猫のやる事であれば「猫のやることだし・・・」で済まされます。
武井宏之は長年漫画を連載してきて人間のしがらみが嫌になった結果、猫という部分に落ち着いたのです。
猫と言えば「マタムネ」
「お前さんの進むべき道はいつも心で決めなさい」
出典:武井宏之 漫画『シャーマンキング』第19巻164話
『猫が原』連載と聞いて多くの読者が「マタムネ」を思い出した事でしょう。マタムネと言うのは武井宏之が過去に『週刊少年ジャンプ』にて連載していた『シャーマンキング』に登場するキャラクターです。
コミックスで言うところの19巻で初登場というとても遅くに登場したキャラクターですが、『シャーマンキング』のなかでもインパクトの強いキャラクターです。
家が霊媒師の家系である主人公「麻倉葉」の初めての持ち霊である猫の霊マタムネ。彼は1000年前からこの世に存在しており、麻倉家に仕えていました。そんなマタムネも猫という事で自由気ままな性格。
しかし自分の中のルールだけは守ります。そんなマタムネが葉に対し何度も言ったセリフがあります。
それは
「お前さんの進むべき道はいつも心で決めなさい」。
自由気ままな性格のマタムネですが、過去に一番大切だった飼い主を自分で殺めた経験があります。
それは世界を守るために仕方のなかった事なのですが、未だに彼はそれを悔いているのです。だからこそ葉には大切なものは自分で決めて欲しいと願っているのです。
飼い主が亡くなったという点と、飼い主に対する事で悔いているという部分がマタムネとノラ千代は似ています。
マタムネの場合は葉のおかげで飼い主と再び出会うことが出来ました。しかしノラ千代の場合は「葉」となる存在がいません。
武井宏之はこの部分をどう処理していくのでしょうか。マタムネとノラ千代の違いを追っていくのも面白いかも知れません。
今後もバッサバッサ斬っていく!?
「うん。普段、頭きてることは全部斬ってやります(笑)。」
出展:コミックナタリー インタビュー記事
主人公のノラ千代は武井宏之作品には珍しい最初から強いキャラクター。今後、彼はどうなっていくのか楽しみです。
作者の武井宏之は今後の展開について「うん。普段、頭きてることは全部斬ってやります(笑)。」と語っています。
人間が苦手で社会に対しても人間関係に対しても不満をたくさん抱えていそうな武井宏之。今まで主人公が人間だったからこそ制御されていた怒りが猫が主人公の本作では止まらないことでしょう。
作者の思いが強い作品というのは面白い作品である事が多いので今後の展開に期待大です!!